短編小説いもむし

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目次
1 仲間
2 人間
3 毛布
4 生きる
5 絶望
6 脱皮
7 蛹
8 空
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あらすじ
『あらすじ』をざっくりと書くよりも、物語の中から抜き出してみようと思います。いもむしと人間の女性の物語。あり得ないのに、あり得そうな物語。(あり得ないか...)
『3 毛布』 より
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「何故家がないのだ。」
俺が訊くと、更に笑った。
「あなたは、少しデリカシーがないわ。普通はそう云うこと、みんな訊かないのよ、遠慮して。そして、陰でこそこそと噂をするのよ。時には気の毒ね、など言ってみたり、時には、ちょっと危なそうよね、だったり、時には...ばかにして笑うのよ。こっちは、勝負なんてした覚えなんてないのに、勝手に自分がこの憐れな女に勝ったと思って、蔑むの。おかしいでしょ?それが人間よ。」
「人間?」
「そう、人間。私も人間よ。あ、でも、人間捨ててるかしら。」
そう言って、ふっ、と笑った。これは、どんな種類の笑いなのだろうか。また寂しそうな目をしたような気がした。
「すまない。」
俺は、デリカシーがないことがどんなことかわからなかったが、あまり良くないことなんだろうと想像し、無性に申し訳なくなり、謝った。謝って済む問題ではないかもしれないが。
「謝らなくていいのよ。普通は遠慮とかしてそうしなくても、私にとっては、あなたのそのデリカシーの無さは、ありがたいし、好きよ。だって、上っ面で心配した風にして、陰でこそこそと不幸な人間に仕立て上げ、そうしてバカにしているようなことこそ、気味が悪いでしょう?まず、普通はできないけれど、あなたみたいにできる人の方がありがたいの。だから、あなたの『すまない』はお返しするわね!」
「ありがとう。」
俺は、素直にそう言った。
すると、その人間は、初めての笑い方で笑った。その笑い方はどんな種類なのか、訊きたくて仕方がなかったが、なんとなく訊かなくてもいいような気がして、『何故だ?』を飲み込んだ。
俺には、この人間と云う、偽物の仲間が、もしかしたら本当の仲間のような気がした。それこそ、自分に、『何故だ?』を、問いかけていた。
「あのね。」
俺が、自問自答を、『何故だ』の問いとその答えをしつこいぐらいに考えていると、人間が口を開いたらしく、はっとなり、人間に意識を戻した。
「さっきの質問よ。何故家がないか。」
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