蕎麦屋の女

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目次

あらすじ

一、 都会の中の小さい店

ニ、 ざるそば以外のもの

三、 店員の一面

四、 誘う

五、 打合せ

六、 約束

七、 切り干し大根

八、 ドライブ

九、 ご来光

十、 男と女である意味

十一、家族

十二、無限

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あらすじ


この蕎麦屋の蕎麦は最高だ。
茹で加減から、麺の太さから、香りから、味から、そして、つゆの濃さの加減から、とにかく何から何まで最高だ。
蕎麦は勿論のこと、蕎麦湯が更に最高だ。
他の蕎麦っ食いがどうかはわからないが、私の場合は蕎麦湯を飲むために蕎麦を食いに来ていると言っても過言ではないぐらいに蕎麦湯が好きだ。
蕎麦がうまくないと、絶対に蕎麦湯はまずい。

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ある蕎麦好きな男が蕎麦を食らう物語。

などではない。

きっかけはいつも、突然、偶然、必然、そのどれをもブレンダーで混ぜ合わせたように混ざり合って現れる。何事もなかったかのように、空気のように、それなのに劇的なようでいて。

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しかし、ひとつだけ気にくわないことがある。
この店は、注文を取りに来る、蕎麦を運んでくれる、会計をしてくれる、それらをすべてひとりでこなすフロア担当は、どうやらひとりと決まっているらしい。
今の店員が入れ変わったのは二年前だった。二年前までフロアを担当していたのは、蕎麦屋の旦那の奥さんだったが、体を壊してしまったらしく、雇わざるを得なくなってしまったようだった。
今の店員も、特に接客態度が悪いわけでもないし、かといって特別愛想がいいわけでもないが、まあ、それに対しての不満は全くない。
ただひとつだけ、蕎麦湯を出すタイミングが気に入らない。
そのタイミングが、奥さんは絶妙だったのだ。
この二年、どうにも蕎麦湯が出てくるのが早すぎる。
細かいことを言っていることは承知の上で、だからこそ、そのことを言えずに二年が経ってしまった。
喉元まで上がってくる言葉を、いつも蕎麦湯と一緒に飲み込む。
また上がってきても、飲み込む。
ウジウジしていて、そんな自分も気にくわない。さらっと言ってしまえばいいではないか。
しかし一方では、たかが蕎麦湯に...などと思われやしないか、なども考える。こんなに蕎麦湯のことで店員に対してイライラしているくせに、どうにもこの店員が気になって仕方がないのも事実だ。
また、そんなことを考える自分が更に気にくわない。
まるで、小さい人間のようだ。実際そうなのだから、仕方のないことなのだが...
そしてまた、今日も言えずに支払いを済ませ暖簾をくぐる。

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ほんの何気ない日常の中に、それは潜んでいるものなのかもしれない。

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